小坂まさ代2023年第4回定例会一般質問(その2)包括的性教育について
2、包括的性教育について
包括的性教育とは、生殖器官や妊娠についての知識の教育だけではなく、性交、避妊、ジェンダー、人権、多様性、人間関係、性暴力の防止等も含めた性教育のこと。ユネスコでは「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」を示し、国際的な基準となっている。
今年度から全国の学校で本格的にスタートした「生命の安全教育」は国が令和2年6月に策定した性犯罪・性暴力対策の強化の方針を踏まえ、子どもや若い世代が性被害の被害者、加害者、傍観者にならないために始まった取組。本市において、どのように取り組んでいるのか。
○教育長
各学校において、子どもたちを性暴力の加害者、被害者、傍観者にさせないために、児童・生徒の発達の段階や学校の状況を踏まえて文部科学省の指導の手引や教材等を参考として指導している。例えば小学校の低中学年では学級活動の時間に、水着で隠れる部分、いわゆるプライベートゾーンやプライベートパーツに関する教材の活用を通して、自分の体を見られたり触れたりして嫌な気持ちになる場面について考え、話し合いをする。自分の体も他の人の体も大切であるということを理解できるよう指導している。
小学校高学年では体育科の授業で、動画教材の視聴やその後の話合いを通して、自分と他の人では心と体の距離に違いがあることに気づかせ、他の人の気持ちを尊重するとともに、またSNSで相手とつながることの危険性についても考えさせ、自らの安全を守る意思決定と行動選択ができるよう指導している。
中学校では保健体育科の時間において、事例集を活用しながら性暴力の背景を通してSNS等で見えない相手と関わることの危険性について考え、適切な対応方法を身につけることができるよう指導している。
各発達階において計画的に指導を進めることで児童・生徒が自分の心や体についても理解を深めるとともに、自分で自分の安全を守り、もしものときにSOSを出すことができる実践的対応力を身につけることができるよう指導している。
○小坂
包括的性教育が実践できる環境づくりのためには、教員に向けた学びのプログラムや研修が必要と考えるが、現状について伺う。
○教育長
本市では、学校教育において「包括的性教育」という名称は使っていないが、文部科学省の生命の安全教育の手引や東京都教育委員会の性教育の手引、人権教育プログラム等を活用して学習指導要領に示された性教育、また人権教育に関する内容について適正に指導している。教育委員会としては指導資料等を随時学校へ情報提供するとともに、必要に応じて生活指導主任会や教務主任会等で情報共有を図っている。学校では、指導資料等について会議等で情報共有したり、またOJT研修を実施したりするなどして児童・生徒への指導に生かせるようにしている。
○小坂
命の誕生の現場にいる助産師などによる出前授業、専門職を講師に招いての特別授業の実施状況は。
○教育長
助産師等の外部講師を招いて授業を行っている学校が複数ある。ある小学校では保健体育の「命のルーツを知る」という単元で命の大切さや性の差などについて話を聞き、赤ちゃんの人形を抱いたりするなどして体験的に学んでいる。
中学校では保健体育の授業で、第1学年は「生殖機能の成熟」、第3学年は「性感染症とその予防」という単元で、生徒の実態や状況を踏まえて養護教諭と連携して指導を行うこともある。
○小坂
子どもたちにとって専門家から直接話を聞くことは非常に大切。毎年全ての児童・生徒にこうした学びを届けられるよう、継続した連携を求める。
現在、性犯罪・性暴力対策の強化方針の取組と関連して、内閣府が本年7月にこども・若者の性被害防止のための緊急対策パッケージを取りまとめた。本市の学校教育において、これを受けての取組について問う。
○教育長
本通知においては、児童・生徒への指導啓発の充実の方針が示されている。本市では、国から提供された教材等を活用しながら、各学校での生命の安全教育を推進している。特に第十小学校は全国安全教育研究会の発表校として研究を深め、本年2月にその成果を発表。文部科学省からも高い評価を得た。これらの成果もさらに広めながら、各学校の状況に応じた生命の安全教育を推進していきたい。
○小坂
ぜひ成果の共有を。
ジェンダー平等と性の多様性を前提とする人権教育としての性教育が包括的性教育の中核であると考える。被害者となる子どもを出さないために、子どもの権利の視点も踏まえ今後の本市の性教育はどうあるべきか、教育長の見解を伺う。
○教育長
子どもの権利条約では、子どもの権利として生きる権利、育つ権利、そして守られる権利、参加する権利ということが示されており、こうした権利はジェンダー平等や多様性が認められるということが大原則。こうした視点を踏まえ子どもたちが健やかに成長できるよう、今後も一人ひとりを大切にする人権教育を基本としながら、発達段階や学校の状況などを踏まえて、教育活動全体を通じて適切に性教育を推進していきたいと考える。
○小坂
日本の学校教育における性教育は、性交については取り扱わない学習指導要領の歯止め規定によって制限されている。性教育の国際的な指針についてはユネスコの「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」があるが、この基準に届かない状況が続いていると指摘されている。そこで、学校以外の取組について伺う。本市においては人権平和課がジェンダーや人権の観点から様々な取組をしているが、これまでの取組について伺う。
○市民生活部長
一定の学年で主な対象を区切って、それぞれの年代に応じた講座を実施するなど啓発に力を入れてきた。昨年度は7月に小学校高学年、中学生を対象に、保護者同伴も可能としたデートDV防止講座を、市立第四小学校ひだまりホールを会場に実施。この講座ではSNSによるトラブル、性暴力被害を防止するための、自分も相手も大切に思い、全ての人が互いに尊重し、対等な関係を築くことの大切さについて学ぶというような内容。また、10月には国際ガールズ・デーに合わせ、主に高校生から大学生を対象としてパートナーとの平等な関係や、妊娠・出産をはじめとする正しい性知識などSRHR、いわゆる「性と生殖に関する健康と権利」と、デートDV防止について講座を開催した。そのほかにも、小学生及び保護者等向けに、女性の暴力をなくす運動のシンボルカラーである紫のリボン、ヘアゴムを使ったパープルリボンワークショップを開催するなど、性暴力等について保護者と話題にするきっかけづくりを提供してきた。また、男女平等推進センターの図書資料室ではジェンダー等に関する書籍も配架しており、講座等に限らず学ぶ場を用意している。
○小坂
こうした取組は非常に重要で、ぜひ多くの子どもたちに参加してほしい。専門家との連携などは教育委員会や学校と情報共有し、さらに広げていってほしいが、いかがか。
○市民生活部長
講座等の事業と併せ、デートDV防止等のリーフレットを作成し配架しているが、昨年度は市内公立中学校の全生徒にリーフレットを配布するなど啓発活動を実施した。今後も学校をはじめ関係機関の協力を得て、継続して啓発活動を進めていきたい。
○小坂
日本では性教育は生殖の話というイメージが強く、包括的性教育の考え方が十分に浸透しているとは言えない。また、幼児でも被害に遭ってしまう現状があるなか、市の職員が市内全ての幼稚園や保育園を回り、主に年長児童を対象に「いのちのふれ愛教育」という性教育を行っている岐阜県可児市のような自治体もある。本市でもこうした取組を参考に検討してほしい。いかがか。
○子ども家庭部長
市内の保育園では、園児に対してプライベートゾーンについての保健指導等を実施しているという園が多くあると聞いている。また、当市では市内の保育施設に対して研修や連絡会などの事業を提供する基幹型保育所システム事業を実施しており、昨年度は看護職の連絡会の研修にて性教育に関する研修を実施した。紹介された取組も参考に、基幹型保育所システム事業の看護職の連絡会などを利用して各施設に周知啓発をしていきたい。
○小坂
「性のことは自然に学ぶもの」「寝た子を起こすな」という国際基準から大きく遅れた声もまだ一部で聞かれるようだが、海外の研究などでも正しい知識を得たことで性行動に慎重になり、リスクの低い行動を取るというデータがある。子どもたちを性被害から守り、被害者にも加害者にもしないためには、幼少期からの発達段階に合った継続した性の学びの取組が重要と考える。子どもたちを守るために正しい知識を。今後、子ども家庭部だけではなく教育部、健康部、市民生活部など全庁的な親子や幼児へ向けたさらなる取組を要望する。
(4)東京ユースヘルスケア推進事業について
東京都では、令和4年度より思春期の中・高生などの若い世代に対し、性や体、心のことに関する思春期特有の様々な悩み相談に対応するため東京ユースヘルスケア推進事業を始めた。まず、この事業について説明を。
○健康部長
東京ユースヘルスケア推進事業は、東京都が独自に行う事業に加え、市区町村向けの補助事業がある。都では、思春期特有の健康上の悩みを持つ中学生以上の10代からの若者を対象とした相談窓口を昨年度開設し、本年7月14日からは専用のホームページも開設された。
市区町村向けの補助事業の目的としては、思春期から更年期に至るまでの期間の母性保健の向上を図るとともに、同期間の各ライフステージに応じた健康教育を推進するため、こうした取組を行う市区町村に対して補助を行うとされており、健康増進法等に基づく事業以外で実施する健康教育、普及啓発、相談支援事業が対象となる。
○小坂
性に関することなどに対し相談支援、健康教育普及啓発を行う市区町村に対して10分の10で支援するとのこと。本市においてもこれを活用し、取り組むべきと考える。現在の検討状況について伺う。
○健康部長
現在は、都で実施している相談事業において本市に関わる相談があった場合、本人の了解を得たうえで連携を図るなどの取組を想定している。本事業は昨年度から開始されたものとなり、補助事業については健康増進法に基づく健康増進事業や心の健康づくり事業などは対象外となることから、どのような事業が本市の状況に適しているか、他市の事例等も確認しながら研究していきたい。
○小坂
ぜひ研究を進め、若者が気軽に相談できる場を検討してほしい。
先日、リオンホールで行われた人権の集いに参加した。今年も市長賞を受賞した中学生の人権作文の発表を聞いたが、どの作品も柔らかく真っすぐな感性で綴られており、胸を打たれた。5つの作品のうち3作品は性的マイノリティ、DV被害者、性の多様性がテーマとなっていたことからも、性に関することが人権であることをしっかりと理解できていると感じた。すべての子どもたちが自分の人生を主体的に豊かに生きるために、必要な性の学びを届けられるよう要望する。